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第8話  

篠宮葵が私たちの生活に現れたのは、聡が大学に入った年のことだった。

彼は頻繁にある女の子の名前を口にするようになった。

篠宮葵。

私はこっそり彼女を見に行った。とても美しく、家柄も良い、まるで高貴な白鳥のようだった。

話すこともできず、聞き取ることすらできない私とは、まるで雲と泥のように別世界の人。

その後、聡と彼女が山に登りに行くとき、私は密かに二人の後を追った。

そこで私は、聡の笑顔を目にした。

それは、私の前では見せたことのない、軽やかな笑顔だった。

その瞬間、彼を失うのが怖くなった。

私は陰気なピエロのように、その美しい二人の後ろをこそこそとついて行った。

二人が口論し、別れるのを目にして、私はようやく安堵の息をついた。

だが、その口論が、聡の命を危険にさらすことになった。

彼は足を滑らせ、崖から転落してしまったのだ。

私はどうやって彼を見つけたのか覚えていない。

体重が50キロにも満たない私が、70キロを超える彼を背負って、どうやって一歩一歩大通りまで運んだのかもわからない。

ただ、その夜の月光がとても優しかったことだけを覚えている。

そして、聡がずっと私の耳元でささやいていた。

「ダメだ、俺は死ぬわけにはいかない。俺の星ちゃんが家で待っているんだ……俺がいなければ……みんな星ちゃんをいじめるんだ」

その瞬間、私の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。

聡、あなたはいつもそうだ。いつも、そうなんだ……

だから、私はどうしてもあなたを諦められない。
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